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東京地方裁判所 平成8年(ワ)6686号 判決 1997年1月28日

原告 朝日生命保険相互会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 春原誠

被告 兵庫アクティブ株式会社

右代表者代表清算人 B

右訴訟代理人弁護士 松葉知幸

同 和田徹

主文

一  原告と被告との間において、原告が別紙債権目録記載の債権を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、被告に対して債権譲渡担保付債権を有する原告が、被告の特別清算手続において、債権譲渡担保付債権について別除権付債権とは異なる取扱いをする協定案が認可され、担保債権の取立てを禁止されたことから、右債権の存在確認を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠により認定した事実は、その末尾に証拠を掲げた。その余は当事者間に争いがない。)

1  原告は、生命保険業務を営む相互会社であり、被告は、主としてオートリース業務等を営む株式会社である。

2  原告は、平成二年六月二八日、被告に対し、左記の約定により、三億円を貸し渡した(以下「本件貸付契約」という。)。

(一) 弁済期限 平成五年六月一八日

(二) 利率 年七・八パーセント

(三) 利息の支払時期 借入日及び平成二年九月二〇日以降三か月毎の各二〇日に、借入日から又はその利息支払期日の翌日から次の利息支払期日又は弁済期限までの利息を前払いする。

(四) 損害金 この契約による債務を履行しなかったときは、支払うべき金額に対して年一四パーセントの割合による損害金を支払う。

3  被告は、前同日、原告に対し、左記の約定のある原告との一切の取引に適用される取引約定書(甲二)を差し入れた。

(一) 被告について特別清算開始の申立てがあったときは、被告は、原告の通知がなくとも原告に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに債務を弁済する。

(二) 期限の利益の喪失等の事由によって、被告が原告に対する債務を履行しなければならない場合には、その債務と被告の原告に対する債権とを、その債権の期限及び弁済期のいかんにかかわらず、いつでも相殺することができる。

4  原告と被告は、本件貸付契約の期限及び弁済方法等について、平成五年六月一八日、同六年六月二〇日、同七年六月二〇日の三回にわたって変更契約を締結した結果、債務元本、期限及び弁済方法は次のとおり確認・変更された。

(一) 平成七年六月一九日現在の債務元本 一億三三五〇万円

(二) 期限 平成八年六月二〇日

(三) 弁済方法 平成七年六月二〇日以降毎月二〇日に八〇〇万円宛分割弁済し、期限に残額を一括返済する。

5  被告は、平成七年九月一八日、神戸地方裁判所に特別清算の開始申立てを行ったため、期限の利益を喪失した。

6  原告は、平成七年一〇月三〇日、被告の原告に対する前払利息返還請求権一万七四〇〇円と本件貸付債権とを対当額で相殺し(甲六の1、2)、残元本は一億〇九四八万二六〇〇円となった。

7(一)  被告は、平成二年六月二八日、本件貸付契約を締結した際、原告が請求した場合直ちに被告が第三者に対して有する債権を担保として譲渡する旨の予約念書を原告に差し入れた。

(二)  原告と被告は、右念書に基づき、平成五年六月一八日、左記の内容の債権譲渡予約契約を締結した(以下「本件譲渡予約」という。)。

(1) 被告は、原告との取引によって現在及び将来負担する一切の債務を担保するため、被告が保有するリース債権を原告に譲渡することを予約する。

(2) 被告は、譲渡予約をしたリース債権について第三債務者の氏名、債権額、弁済期日等を記載した一覧表を原告に毎月提出する。

(3) 債権保全を必要とする相当の事由が生じたと原告が認めたときは、原告は予約完結権を行使することができる。

(4) 原告が予約完結権を行使したときは、被告は、譲渡債権に係る契約書その他一切の書類を原告に交付し、かつ、第三債務者に対し、確定日付ある証書により債権譲渡通知をする。

(5) 右第三債務者に対する債権譲渡通知については、被告は、原告に対しあらかじめ委任する。

(6) 原告は、譲渡債権を取り立てたときは、その取立代金を被担保債権の期限にかかわらず、任意の時期、順序及び方法により被担保債権の弁済に充当することができる。

8(一)  被告は、平成七年八月三〇日、原告に対し、書面で特別清算の手続を採るべく会社解散のための臨時株主総会の準備に入ることを通知したので、原告は、本件譲渡予約に基づき、同年九月五日、予約完結の意思表示をした。

(二)  被告は、右予約完結権の行使以前に、原告に対し、別紙債権目録記載の各債権(以下「本件各債権」という。)を記載した「リース債権譲渡予約差入明細表(平成七年八月二一日現在)」を提出していた(甲一一、弁論の全趣旨)。

(三)  原告は、被告を代理して、平成七年九月四日、別紙債権目録記載の各債務者(以下「本件各第三債務者」という。)に対し、内容証明郵便で、右目録記載の各債権を原告に譲渡した旨の通知をした(甲一二ないし二二の各1、2)。

9  被告は、平成七年九月一四日、原告から本件各債権に係るリース契約書類の引渡しを求められたが拒否し(弁論の全趣旨)、同月二九日ころ、本件各第三債務者に対し、本件各債権について引き続き被告に支払うよう通知した。

10  被告は、平成七年九月一八日、神戸地方裁判所に対し、特別清算手続開始申立て(平成七年ヒ第一〇一二号)を行い、同日、弁済禁止等の保全処分を得、続いて同年一〇月三日、特別清算開始決定を得た。

11  平成八年三月一一日、被告の特別清算に係る債権者集会が開催され、「担保設定の趣旨で会社(被告)の有する債権」につき、譲渡契約あるいは譲渡予約契約がなされている債権については、債権譲渡担保契約付債権と位置づけ、一般債権及び別除権付債権と区別して弁済方法を定めた協定案が可決され、同月一四日、神戸地方裁判所により認可決定が出された(以下「本件協定」という。)。

二  争点

本件の中心争点は、本件各債権の帰属であるが、その前提として以下の二点が問題となる。

1  原告が本件各債権について、破産の場合において別除権を行使することを得べき債権者(以下「別除的債権者」という。)といえるか否か。

2  本件協定の効力が原告に及ぶか否か。

第三争点に対する判断

一  争点1について

本件譲渡予約が有効であることについては当事者間に争いがなく、前記争いのない事実等によれば、原告の予約完結の意思表示及び本件各債権の譲渡通知は、被告の特別清算の申立て以前にされていることが認められるから、本件各債権は、右意思表示及び通知によって原告に移転しており、原告は、右移転を被告に対抗することができる。

したがって、原告は、確定的に本件各債権について譲渡担保権を取得し、被告に対抗できる地位にあるといえるから、別除的債権者ということができる。

二  争点2について

1  前記争いのない事実等によれば、本件協定は、別除権付債権についての定めをし、更に債権譲渡担保権付債権について別除権付債権及び一般債権とは区別して取扱を定めているところ、債権者集会において法定多数の同意を経て可決され、特別清算裁判所の認可決定が確定している。このような本件協定の効力が別除的債権者である原告にも及ぶか否かが問題となる。

商法は、別除的債権者は、破産の場合に別除権の行使によって弁済を受けることができる債権額については債権者集会において議決権を行使することができず、その額は債権者集会の招集請求権の基礎の計算にも算入されないとしている(同法四四〇条一項、四三九条四項)。これは、別除的債権者は、債務者が破産に至った場合でも、破産手続によらずに別途弁済を受けることができるから、特別清算手続においても一般債権者に対する関係で優越的地位を認め、債権者集会において定められる協定の効力に拘束されることなく、担保権の行使によって弁済を受けることができることを前提とした規定であると解される。

2  被告は、債権譲渡担保は抵当権等の典型担保に比べて担保としての効力が不完全であり、典型担保と同様に取り扱うべきか疑問があり、譲渡対象債権を担保する根抵当権が債権譲渡に随伴しないため譲受債権者側にも不都合を生じることを考慮し、本件協定においては、債権譲渡担保契約付債権を別除権付債権ではなく、協定対象債権と扱うことを全債権者に表明し、一般債権者との差についても合理性のある協定内容を盛り込んでおり、債権者集会において債権譲渡契約付債権の全額について議決権を行使できることとし、その旨各債権者に事前に説明した上、適式な通知を行って債権者集会を開催して、原告及び一般債権のみを有する一社を除く債権者の賛同を得たから、このような場合、協定の効力は、協定案に同意をしなかった債権譲渡担保契約付債権者にも及ぶ旨主張し、乙第五号証はこれに沿う見解を明らかにしている。

しかし、前判示のとおり、債権譲渡担保契約付債権を有する債権者は別除的債権者というべきであって、現行法上、典型担保を有する別除権者と取扱を異にすべき根拠は見当たらないし、現行商法の規定に照らすと、別除的債権者を、その意思を無視して協定対象債権者として扱ったり、別除権を失わしめるような協定内容に拘束することはできないというべきである。被告及び乙第五号証の見解は、特別清算手続をめぐる実態を考慮した傾聴に値する見解ではあるが、現行法の解釈としては解釈論の域を逸脱している感があり、当裁判所は採用しない。

三  以上によれば、原告の請求は理由がある。

(裁判官 脇博人)

<以下省略>

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